Pecora2013

 



     Story


世界は昼と夜とに分かたれた。


ほとんどすべての住人は昼の世界に住み込んだ。
太陽と共に起き出して、太陽と共に眠りについた。

ただひとり、羊飼いの青年を除いては。


彼は眠れる羊の調教人。操るは羊のダンス。
羊が一匹…羊が二匹…羊が三匹…
世界中を眠りに落とすのが彼の仕事。


さかしまの暦を生きる彼を想う娘がいた。
決して交わらない昼と夜とに裂かれたふたり。
娘の願いはひとつ。
分かたれた昼と夜をどうか一つに。


願いは悪魔の耳に聞き届けられた。
「生き残るのは一つだけ」
かくして昼と夜の戦争が始まる。
想い合うふたりが憎みあう敵同士となって再会を果たした時、
世界に長い長い極夜が訪れる。


果たして呑み込まれるのは――
昼か、夜か。
 




     Introduction

はじまして。あ、実は挨拶文を書くのは初めてでして。

さて、今回の作品の冠に“特別企画”と付けさせて頂きました。

これには色々な意味があるのですが、一番の“特別”は、結成6年目を目前にして初めて外部演出家を招いての永村閏作品となるからです。

昨年夏、永村閏に待望のお子さんが生まれました。それまで、がむしゃらに永村閏作・演でやって来た我々にとっては大きな喜びであったと同時に大きな打撃でもあったわけですが、一方で次のステップを考える良い機会でもあったのかもしれません。

それから約1年、個々に外部活動を続けている中、永村閏が活動できないからこそできる何かで新たな変化を生み出そうと思い、外部演出家を招いて公演をすることを決めました。

そうと決まるとアホみたいに突き進む私ですので、数名の候補者とお話させて頂き、最終的に絶対安全ピンの黒田圭さんにお願いするに至りました。

黒田圭さんは、永村閏とは古くからの付き合いでして、一方の私は初対面。一から黒田圭さんのお話を聞かせて頂き、難しいことは抜きに、強く“信頼”と“面白さ”というものが私なりにイメージできたので、今回お願いすることになりました。

そして、今回の作品は、我々劇団MAHOROBA+αの初演となる作品であり、複数ある永村閏作品から黒田圭さんがこれ!と選んで頂いた作品でもあります。

そんなお互いの思いがどんな化学反応を起こし変化として生まれるか、是非劇場でご覧下さい。

代表 三好康司



     Message from Director


「今度マホロバで演出やることになったよ。永村さん育児休暇なんで、ピンチヒッターで呼ばれてさ」
と、周りの人間に話した後で、あっ、と気づいた。子供ができることを「ピンチ」と表現した自分に。アホでした、すみません。


いや、だからってなにも「子供が生まれたことは無条件にめでたいじゃん!」と目をキラキラさせながら主張したいわけではない。


子供を持つということ。それは肯定するべきことでも否定するべきことでもない。端的な、リアルである。誰もがそれぞれの人生におけるリアルを生きている、というだけのことだ。
演劇人の出産は、演劇をやっていない人の出産と比べて何か特別な意味でもあるのか。そんなわけはないだろう。
誰とも比べられない永村さんの人生のリアルを、意味づける資格があるのは永村さん本人だけである。
「育児がある。劇団がある。稽古に来れない。代わりの演出家が必要だ。」
これのどこに「ピンチ」があるのか。「リアル」があるだけだ。
以後、「ピンチ」という物語で、永村さんの人生を、そしてMAHOROBA+αという集団を語るという愚を犯さないように気をつけたいと思う。
そして、「リアル」を愛することができるように努めよう。


それよりもいま私が気にしているのは、男と女の違いである。
先日、私がtwitterで興味を持ってフォローしている女性が、「小劇場は男性中心である」という意見を投稿していた。ある年齢以上になると多くの女性は結婚や出産イベントを経て、演劇から引退する。作り手としても観客としても。すると劇場にいるのは演劇関係者や関係者知人である「若い女性」と、あとは老いも若きも男性ばかりになる。男性は女性のように引退しない。そうして演劇の歴史は、男の語る言葉によって語られ続けていく。
この指摘に、私は緊張した(今もしている)。
なぜならMAHOROBA+αは、メンバーの大部分が女性だからである。
彼女らはその中心にいる永村閏という女性の作風を愛し、集い、共に時間を過ごしてきた集団である。濃厚に女性性が、ある。
そこに男性の私が、演出家として入っていくとはどういうことか。
創作集団としての歴史と、女性性によって作られてきた何か。その二つを、私は共有していない。共有していないが、関係はしていかないといけない。
壊してしまう可能性もある。女性性は壊れない。壊れるのは、創作に必要な関係性だ。それが怖い。彼女たちが演劇にどう関わってきたか、これからどう関わっていくのか、その関わりに寄り添うことができないといけない。


なんか、だんだん面倒になってきた。私もそれなりに現代の子だし、「劇団て、いいものだねえ」みたいな感傷は皆無だし、むしろ劇団を疑うようなところから演劇活動を始めた。
マホロバだろうがなんだろうが、とにかく作品が作れればいいじゃん。


だがしかし。
人が、集まること。信頼し合って、何かを作ること。そのこと自体の力強さ。
それを信じることなしには、演劇という営み自体が、不可能じゃないか。
今回の外部演出とのコラボを企画したのは、劇団代表の三好康司さんである。
彼は本気で「永村が戻ってこれる場所」を守ることを考えている。そしてそれを真摯に支えている10人ほどの劇団メンバー。
壊れてもいいのかもしれないけど、壊すのは簡単すぎる。私の中で、今のMAHOROBA+αを肯定することは、演劇を肯定することと深く結びついている。


演出を引き受ける前に何度かワークショップやミーティングを行い、慎重なプロセスを経たものの、きっとお互いに感じる「違い」は小さいものではないと思う。
コラボレーション、といえば聞こえはいいが、必ずお互いに何かの変容を迫られるし、お互い無傷ではいられないだろう。私とMAHOROBA+αは、きっと、新しい傷によって新しい自分を見出すことになるだろう。
うん、やはり「ピンチ」はどこにもない。「リアル」が、あるいは「チャンス」があるばかりだ。
 


演出 黒田 圭




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